辞めた社員が取引先と交わしたメールが、会社のどこにも残っていない。そんな場面に、心当たりはありませんか。
社員が私用のアドレスで仕事のメールをしていると、退職者の仕事メールが私用アドレスに残ったまま、会社からは追えなくなりがちです。公私兼用のメールアドレスは「楽だから」と黙認されやすいものの、見積もりや納期の確認が必要になったときに困ります。
解決の方向は、本人に注意を促すことではなく、仕事のアドレスを、会社の独自ドメインで一本化することです。Google Workspaceで会社名のアドレスを社員ごとに用意し、退職者の仕事メールを会社に残す方法を、順に紹介します。
- 退職者の仕事メールが私用アドレスに残る理由と、「注意喚起」だけでは足りない理由
- 会社の独自ドメインで、社員ごとの会社アドレスを用意し、公私分離を進める5つのステップ
- 切り替え中の見落としや、アドレスを消すタイミングなど、つまずきやすい点
- 出費・売上・集客・現場効率の4つのメリット
退職者の仕事メールが追えない…取引先から聞かれて固まった山田社長の夜
コミックのセリフを文字で読む(シナリオテキスト)
コマ1:夜のバーのカウンター。山田社長がハイボールのグラスの横で、腕を組んでカウンターにもたれている。
コマ1 社長「マスター、聞いてくれよ。先月辞めた営業の若いのがいるだろ。」
コマ2:社長が身を乗り出し、スマホを片手に訴える。
コマ2 社長「取引先から、『あの見積もり、どうなってる?』って電話が来たんだよ。」
コマ3:社長が眉間にしわを寄せ、首をひねる。
コマ3 社長「会社のメールを探しても、あいつのやりとりが何も残ってねえんだ。」
コマ4:マスターが氷の入ったロックグラスのウイスキーの水割りを一口飲み、静かに耳を傾ける。
コマ4 マスター「なるほど。そのやりとりは、どこにあるのでしょう。」
コマ5:社長が腕を組んだまま、渋い顔で答える。
コマ5 社長「あいつ、取引先とは、自分の私用のアドレスでやってたらしい。」
コマ6:マスターが相手をじっと見つめる。手前で、社長が目を丸くする。
コマ6 マスター「……では、こう考えてみましょう。そのメールは、誰のものでしょうか。」
コマ6 社長「え?」
コマ7:手前で社長が言い返し、奥でマスターが穏やかに微笑んで答える。
コマ7 社長「仕事のメールだ。会社のもんに決まってんだろ。」
コマ7 マスター「中身は、そうです。ただ、入れ物は、辞めた方のものですね。」
コマ8:社長がはっとして、あごに手を当てる。マスターは穏やかにうなずく。
コマ8 効果音「はっ」
コマ8 社長「入れ物か……。会社の名前のアドレスにしとけば、追えたってことか。」
コマ8 マスター「ええ。人が替わっても、受け取る先を会社が決められます。」
コマ9:社長が笑ってグラスを軽く持ち上げる。穏やかに微笑むマスター(最終コマ)。
コマ9 社長「よし、今度うちに寄って、いつものようにちょいちょいっとやってくれ。」
コマ9 マスター「ええ、承知しました。大切なのは、本人の注意ではなく、仕事のアドレスを会社のものにするという『決断と行動力』です。」
なぜ山田社長は、辞めた社員のメールが追えない悩みから抜け出せたのか?
この記事のポイントは、辞めた社員の仕事のやりとりが追えない悩みは、本人の注意に頼るのではなく、仕事のアドレスを会社のものに変える仕組みで、大幅に減らせる、ということです。
退職者の仕事メールを会社に残す手順:Google Workspaceで独自ドメインの会社アドレスに一本化する方法
退職者の仕事メールを会社に残すには、社員ごとに会社ドメインのアカウントを用意し、取引先とのやりとりを、そのアドレスに移していきます。公式ヘルプでは、管理者が管理コンソールからユーザーを追加でき、退職時には削除の前にデータの扱いを決めておくことが案内されています。鍵は、誰がどのアドレスを使っているかを把握し、新しいやりとりから切り替え、辞める前に受け取り先を決めることです。ここでは、5つのステップに分けて紹介します。
Step 1:誰がどのアドレスで仕事をしているかを棚卸しする
最初に、社内で仕事に使われているアドレスを洗い出します。ここで聞くのは、アドレスの種類と、取引先とのやりとりに使っているかどうかだけです。メールの中身までは見ません。見に行く姿勢が出ると、正直に答えてもらいにくくなります。
- 社員ごとに、仕事で使っているアドレス(会社のもの・私用のもの)を書き出してもらいます。
- 取引先とのやりとりに、私用のアドレスを使っている人と、その相手先の大まかな範囲を確認します。
- 切り替えの優先順位を決めます(取引先が多い人、退職が近い人から)。
つまずきやすい点:「棚卸しは監視ではない」と先に伝えておきます。私用のアドレスで仕事をしていた事実を責めると、申告されにくくなります。社内の規程や、個人情報の扱いに関わる場合は、社労士や弁護士に相談してください。
所要時間の目安:半日〜1日程度が一つの目安です(社員数と、聞き取りの方法によって幅があります)。
Step 2:会社ドメインで、社員ごとのアカウントを作る
会社の独自ドメイン(アドレスの@より後ろの部分)でGoogle Workspaceを使えるようにし、管理者が社員ごとのアカウントを追加します。公式ヘルプでは、管理コンソールの[ディレクトリ]からユーザーを追加する手順が案内されています。独自ドメインをまだ持っていない場合は、先に取得が必要です。
- 自社の独自ドメインを持っているかを確認します(なければ取得します)。
- 管理コンソールにログインし、ユーザーを追加します(名前とアドレスの形式を、社内で統一して決めておきます)。
- 社員ごとに、必要なライセンスを割り当て、初期のパスワードや、ログイン方法を本人に伝えます。
つまずきやすい点:ユーザーごとにライセンスの費用がかかります(金額は公式の料金ページで確認してください)。また、社員がすでに会社のアドレスで個人のGoogleアカウントを作っていた場合は、競合することがあります。公式ヘルプに、その場合の対応が載っているため、先に確認します。
所要時間の目安:設定そのものは1〜2時間程度、全員分の案内を含めて半日程度が一つの目安です。反映に時間がかかることもあります。
Step 3:取引先に新しいアドレスを伝え、新しいやりとりから切り替える
取引先には、新しい会社アドレスを伝え、新しく始まるやりとりから、少しずつ切り替えます。一度に全部を切り替える必要はありません。切り替えの間は、古いアドレスに届くメールの見落としが起きやすいため、運用で防ぎます。
- 取引先ごとに、新しいアドレスの案内文を送ります(署名も、新しいアドレスに更新します)。
- 切り替えの間は、古いアドレスにも届くメールを、本人が確認する決まりにします。
- 古いアドレスへの返信が続く相手には、新しいアドレスで返信し、切り替えを促します。
つまずきやすい点:切り替えの間は、古いアドレスと新しいアドレスの両方を見ることになり、見落としが起きがちです。移行の期間をあらかじめ決めておくと、だらだら続くことを防げます。古いアドレスをCCに入れてもらう運用は、公式機能ではなく、運用上の工夫です。
所要時間の目安:案内文の作成は1〜2時間程度、実際の切り替えは数週間〜数か月かけるのが一つの目安です(取引先の数によって大きく変わります)。
Step 4:フォームや請求書など、自動で出るメールの送り元を直す
問い合わせフォームの自動返信や、請求書の送付など、システムから自動で出るメールの送り元も、会社のアドレスにそろえます。無料Gmailのアドレスなど、会社の名前が入っていないアドレスから出ていると、受け取る側に不審に見られることがあります。また、Gmailの送信者向けガイドラインでは、送信ドメインの認証(SPF・DKIM・DMARC)の設定が案内されています。
- フォームや請求書のシステムで、送り元になっているアドレスを一覧にします。
- 送り元を、会社のアドレスに変更します。
- 自社ドメインの送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC)を設定し、管理者向けの診断ツール(Admin Toolbox)で確認します。
つまずきやすい点:送り元を変えると、返信の届き先も変わります。誰が受け取るのかを決めてから変更します。公式のガイドラインは、設定の要件が更新されることがあるため、設定の前に最新の内容を確認します。なお、届くかどうかは受信側の判断にも左右されるため、設定をすれば必ず届くとは言い切れません。
所要時間の目安:一覧の作成は1〜2時間程度、認証の設定と確認は半日程度が一つの目安です(使っているシステムの数によって幅があります)。
Step 5:辞める人が出るときは、削除の前に受け取り先を決める
退職者の仕事メールを会社に残すうえで、いちばん大切な手順です。アカウントを消してから気づくと、取り戻せなくなることがあります。公式ヘルプでは、削除の前に、データの扱いを決めておくことが案内されています。一時的に停止して、受け取り先を決める時間をつくる方法もあります。
- 退職が決まったら、その人宛てのメールの受け取り先(上司や、担当の後任)を決めます。
- アカウントを削除する前に、メールの転送や、ドライブのファイルの引き継ぎを済ませます。
- 削除ではなく、一時的な停止で様子を見るかを、社内で決めておきます。
つまずきやすい点:公式ヘルプでは、削除したユーザーは一定の期間内であれば復元できる場合がある、とされています(日数は公式ヘルプで確認してください)。ただし、復元できる期間には限りがあり、期限を過ぎると戻せません。期限に頼らず、削除の前に済ませる決まりにします。
所要時間の目安:受け取り先の決定は数十分、引き継ぎの作業は1〜2時間程度が一つの目安です(データの量によって幅があります)。
担当者向けの補足です。ここで紹介した方法は、アドレスの置き場所を会社のものに変えるもので、個人のスマホで私用のアドレスを使うこと自体を止めるものではありません。公私分離は、段階的に進めるのが現実的です。私用と仕事のアドレスが混ざっていると、宛先の取り違えによる誤送信も起きやすくなります。就業規則への反映や、退職者との取り決めに関わる部分は、社労士や弁護士に相談してください。
退職者の仕事メールが私用アドレスに残る悩みは、仕事のアドレスを会社の独自ドメインで一本化し、辞める前に受け取り先を決める運用を組み合わせることで、追えない状態を減らしやすくなります。
退職者の仕事メールを会社に残すメリット:出費・売上・集客・現場効率
| 4大原則 | このケースでの効果 |
|---|---|
| 出費ミニマム | 取引先とのやりとりを探し回る手間や、聞き直しの手間を減らしやすくなります。ただし、社員ごとにライセンスの費用がかかるため、出費がゼロになるわけではありません。社員数の分だけ増えます。 |
| 売上最大化 | 取引先から聞かれた件に、すぐ答えられないことによる信用の低下を防ぎやすくなります。直接の売上増ではなく、間接的な効果です。 |
| 自動集客 | 直接の集客効果ではなく、間接的な効果です。会社の名前が入ったアドレスで問い合わせへ返信できると、会社としての信頼感を伝えやすくなります。 |
| 現場効率化 | 人が替わっても、受け取る先を会社が決められるため、引き継ぎの抜けを減らせます。ただし、切り替えの間の見落としを防ぐ運用は別に必要です。 |
実際によくある話です。「うちの社員も、私用のアドレスで取引先とやりとりしているかもしれない」と感じたら、アドレスの棚卸しと、会社アドレスへの切り替えの進め方から、サキザキにご相談ください。今の使われ方を、一緒に整理します。